実務支援と資格

 県の創業マネージャーとして、シニアの起業相談にアドバイスしてきて4年目になる。最近、65歳までの再雇用を望まず、60歳定年、できれば定年前に次を準備しておこうと考えている相談者が多くなってきた。

 

 「定年後数か所で働いてきたが、なかなか自分に向いた仕事がないため、何か自分でやってみたい」と、先日、68歳の方が相談に訪れた。10年前頃は、68歳にもなれば今更働くこともないし、余生を年金と退職金で悠々自適で過ごせば良し、という時代だった。しかし時代は変わった。長くなった定年退職後をどう生きるかというのが大きな課題となっている。65歳まで会社に勤めたとしても、それからの人生は平均的に考えても約20年は残っている計算になる。「人生100年時代」が現実のものになりつつあることを実感する。

 

実務顧問という働き方

 顧問には、大企業の役員経験者や官庁の上級職経験者の「顔」を活かしてもらうため、取引のあった企業が退職後に迎え入れる役職というイメージが強かった。しかし、最近では企業の課題解決に当たるエキスパートとしての顧問が注目されるようになった。キャリアを通じて培ってきた経験や専門性を活かし、現場のメンバーと共に直接的に企業の事業に参画することから、「実務顧問」とも呼ばれている。

 

 2年前に私が行ったセミナー「シニア起業のすすめ」を受講して相談に訪れた方は、これまでの経験を活かして数社の実務顧問という働き方をしている。

 

ハンズオン支援、実務支援

 この実務顧問は、いわゆるハンズオン支援や実務支援と言われている働き方に近い。ハンズオンとは、「手を触れる」(hand’s on)という意味で、企業の抱える特定の課題(技術・経営・マーケティング等)について深く関与し、専門家として自らやってみて指導をするものである。

 

 コンサルタントや専門家には、企業の問題点を調査し、課題を抽出して課題の解決法を出すところを主な仕事として、そこから先の課題解決のための実務には基本的にタッチしないタイプとハンズオン支援、実務支援までやるタイプがある。

 

簿記1級とITコーディネータ

 シニアからの起業のポイントは、設備投資の必要のない初期資金がかからない事業を検討することである。その意味では、個人事業主となって実務型顧問やコンサルタントを目指すのは理にかなっている。そのような事業を前提として、以下のことを私は相談者にアドバイスしている。

  • 実務型支援ができる人材になること
    • これまで経験してきた業務領域の中で、どの領域の業務に自分の得意技を発揮できるかの棚卸をする。
  • 定年前に準備をしておく
    • 社外のネットワーク作り
    • 事業として考えている業務に関係する資格の取得

 

 定年でシステム開発会社を辞めた元SE(システムエンジニア)はITコーディネータ(ITC)の資格を取得。SEとしての実務経験に加え、ITCとしての知識を習得し、経営とITのわかる専門家としてスタートを切った。先日相談に訪れた金融機関の方は、定年前の起業準備として、簿記1級の資格を取得しようとしている。この資格で管理会計のスキルに磨きをかけ、経営管理や経営分析の実務支援を目指している。起業は生易しくない。しかし、チャレンジして欲しい。私も第2創業にチャレンジしている。