複業とピンクレディ効果

一本足では不安定

 今、楠木新さんの『会社に使われる人会社を使う人』(角川新書)を読んでいます。4年前に福井県の創業マネージャーになり、シニア起業の相談対応の参考にと、既刊の『定年後』(中公新書)をはじめ、いろいろな方が書いている、いわゆる、定年本を読んできました。シニア起業をアドバイスするにあたり、楠木新さんが書いている内容は、共感できることが多々あります。以下は、この本の中で楠木新さんが述べていることです。

 

 右手が回れば左手もまわり、左手が回れば右手もまわる。人は簡単に分離なんてできず、身体でつながっているからだ。これをかつてのヒット曲「UFO」の振り付けになぞらえて、ピンク・レディー効果と呼んでいる。両者の相乗効果が生じることがポイントである。一本足ではきりきり舞いになるのだ。

 在職中から会社の外側に自分が主体となれる居場所を見つけ、そこに「もう一人の自分」を育ててみる。そうすれば、定年退職後も新たな生活にスムーズに移行できる。

(出典:『会社に使われる人会社を使う人』(楠木新著、角川新書)

もう一人の自分

 もう少し、私の言葉で補足すると、こんな感じです。サラリーマンは会社での仕事において、間接的にしか社会とつながることが出来ません。社会の要請(顧客のニーズ)が明確に掴めない立場にいるわけです。定年後の長い自由となる時間をスムーズにスタートさせるには、サラリーマンのときから社会に直接的につながり、社会の要請(顧客のニーズ)を知る必要があります。そのためには、会社で働く自分の他に「もう一人の自分」を作ることです。「もう一人の自分」は、直接的に社会の要請(顧客のニーズ)に関わる複業を持ちます。40代後半又は50代前半から、会社だけ人間から脱皮して、会社の資産を活用しながら「もう一人の自分」を作る準備をしなければなりません。複業の延長線上に、定年退職後の新たな生活が待っているのです。

 

二人の事例

 「もう一人の自分」を作る準備の一つとして、資格取得があります。取得した資格を活用して、定年退職後に新たな生活をスタートさせた二人の事例を紹介します。一人は、昨年まで大手ITベンダーに在職していたMさん。保有している資格は、ITコーディネータ(ITC)。会社在籍中からITC活動を積極的に行っていました。昨年会社を60歳で退職しました。その後、ITC資格の他にPマーク審査員などの資格を活用し、中小企業の支援を事業とする合同会社を立ち上げました。現在、東京と地元金沢において、忙しく活動しています。

 

 もう一人は私です。私は5年前事業承継をして、会社の経営から身を引きました。実質的に定年退職したようなものです。形の上では2年後(76歳)、完全定年になります。私は今、Mさん同様、ITコーディネータ(ITC)の資格を活かし、第2創業としてITC活動を本格化しています。会社を立ち上げたときから、将来の準備としてITC活動をする「もう一人の自分」を作ってきました。本業である会社経営をやりながら、複業としてのITC活動。多くの人的ネットワーク、ITC活動から得られた社会要請(顧客のニーズ)との関わり、これらは会社の資産を活用したから成しえたことです。経営者として会社の資産を活用できたのは、幸いでした。令和元年の初めに思うことです。