どうすれば読解力は身につくのか

数学者の書いたAI本

『AIVS教科書が読めない子供たち』(新井紀子著)。AIの現在、未来を数学者の視点で書かれたこの本は、数あるAI本の中では、群を抜いてわかりやすく、そして示唆に富む本です。帯には、「人工知能はすでにMARCH合格レベル」、「AIが神になる?・・・なりません」、「AIが人類を滅ぼす?・・・滅ぼしません」、「シンギュラリティが到来する?・・・到来しません」。著者の自信を持った言い切りが、読む人の心を掴みます。内容については、後で詳しく紹介します。

AIの体験

私たちが身近にAIに触れられる、体感できるものにAIスピーカーがあります。私の自宅の玄関に置いてあるAIスピーカー(Google Homemin)。京都にいる4人の孫が自宅に遊びにやってくると、必ず話し掛けます。最近では、私の声だけではなく、孫たちの声も聞き分け、応答してくれます。 先日のGWに福井市近郊にあるキャップ場(がらがら山)に出かける孫たちとAIスピーカーとの会話。「ねー、グーグル。ここから”がらがら山”まで、車でどのくらい?」と聞くと、「道路が混んでいなければ、ここから1時間3分程度です」と。このように、AIスピーカー(Google Homemin)は音声認識技術を使い、人の声を聞き分け、膨大なデータを検索し統計処理を行って、行きたい場所への所要時間を教えてくれます。これはAIが出来るほんの小さなことですが、AIが出来ることの可能性は限りなく大きいと言われています。AIによって人間がこれまでやってきた仕事を代替してくれて労働力不足を補ってくれるという期待、逆にAIによって仕事が代替され大量の労働者が失業し、社会は恐慌に陥るという恐れ。期待と恐怖が入り混じるAIの未来を幸せに生きるため、何をしなければいけないか、新井紀子さんは『AIVS教科書が読まない子供たち』の中で、明解に論じています。

読書と読解力

以下は、全国学校図書館競技会と毎日新聞社が共同で行った第62回学校読書調査(2016年5月)の結果についてのネット上の記事です。

「1ヶ月間に本を読まない人の割合(不読者)は小学生では4.0%、中学生は15.4%、高校生は57.1%でした。小学生と中学生では近年で大きな変化は見られませんでしたが、高校生は2013年の45.0%から大幅に増加しており、本離れが進んでいることがわかりました」。続けて「本を読む3つのメリットとは?1.語彙力がつく、2.理解力が養える、3.文章を読むスピードが上がる。文章を理解する力が養われていると、わからない言葉があっても前後の文章から内容が読み取れたり、登場人物の心情がくみ取れたりと、より正確に問題が解けるようになります。こうした理解力は国語以外の科目でも、長文の問題が出題された時に役立ちます。本を通して多くの文章に触れる習慣をつけると、理解力が養われます」と。

 

東ロボとRST

新井紀子さんは、2011年AIが東大を受験する「東ロボ」プロジェクトを立ち上げています。その狙いは、AIには何ができて、何ができないのか。AI時代が到来したとき、AIに仕事を奪われないためには人間はどのような能力を持たなければならないかを明らかにすることです、と言っています。その後「東ロボ」AIは進化を遂げ、2016年時点ではMARCH合格レベルに達しました。MARCHとはご存じのように、明治(M)、青山学院(A)、立教(R)、中央(C)、法政(H)のことです。「東ロボ」プロジェクトと同時に、「大学生数学基本調査」も実施しています。学生はごく当たり前の文章に意味内容を理解するという読解力が欠けているのではないかと、この調査で新井さんは疑問を持ったようです。これは何故なのだろうか。疑問を解くため、今度はRST(リーディングスキルテスト)を開発し、基礎的読解力を調査しました。読解力を試すRSTにはAIも苦手とする、①係り受け、②照応、③同義文判定、④推論、⑤イメージ固定、⑥具体例固定と呼ばれる問題が出題されます。図で示した問題は、⑤イメージ固定の問題ですが、特段、難しい問題ではありません。しかし、その正答率は中学生で25%、高校生で32%でした。さらに、RSTを受験した高校生の偏差値とRSTの成績には0.75~0.80の大きな相関関係があることもわかってきました。これは何を意味するのだろうか。基礎的読解力は人生を左右する。飛躍した言い方ですが、その因果関係は、こうです。基礎的読解力の高い高校生は偏差値が高い。偏差値が高い高校生は難関大学に入学する。大手優良企業は、難関大学のネームバリューで大学生をスクーリングして入社させる。このような企業では、AIに代替されない仕事をする可能性が大きい。結果、AIに代替されない、AIを使いこなせる人材となり得る。では、何が読解力を決定するのか。どうすれば「基礎読解力」が身につくのか。新井さんは生活習慣、学習習慣、読書習慣など、かなり網羅的なアンケートにより探ろうとしました。読書好き、読書習慣がある子供との相関はあるだろうと期待はしていたそうですが、その結果は見事に期待を裏切り相関は見当たらなかったようです。

AIにできないこと

AIに代替されない人材は、AIが出来ない「意味を理解する能力」を持つ人。新井紀子さんは著書の中で書いています。そして、子どもたちが習得すべき能力として強調しているのは、以下の3つです。

①読解力…教科書レベルの文章や説明書などの意味を正しく理解する力

②論理力…自分の考えや意思を相手に明確に伝え、説得や議論ができる力

③数学力…問題を設定し、試行錯誤しながら数字を使って分析的に解く力

この3つの能力を備えていない子供がそのまま大人になると、AIがこれまで人がやってきた仕事の多くを代替している時代をどう生きればよいのか。大きな課題を投げかけている本です。上記したように、新井さんのアンケート調査では、読書好き、読書習慣がある子供と「基礎読解力」との相関は見当たらないと

の結果だったようですが、私は信じています。全国学校図書館競技会と毎日新聞社が共同で行った第62回学校読書調査(2016年5月)がいうように、本を読むことにより1.語彙力がつく、2.理解力が養える、3.文章を読むスピードが上がる。文章を理解する力が養われていると、わからない言葉があっても前後の文章から内容が読み取れたり、登場人物の心情がくみ取れたりと、より正確に問題が解けるようになります。私たちの孫世代が幸せな人生を送るためにも、スマホに消費している時間を読書へ。読解力は読書から。うるさいジジーと言われようと、伝えたい。