使用価値を共創する時代へ

地方から全国へ大きくブレークしたい!

先日行われたふくい産業支援センター主催の「福井ベンチャーピッチ」。地方のベンチャー企業が全国へブレークするための資金調達プレゼン。真剣なプレゼンに感動しました。

「バッグや財布は直して使うことが当たり前の文化を作る」。このコンセプトを掲げ事業をプレゼンした株式会社クラネス北陸さん。私には、今後のビジネスの成長性を感じるものがありました。というのは、商品が実際に使われている過程、あるいはサービスが実際に使われていく過程で、価値が作られ続けていくという「使用価値」がビジネスの根幹にあるからです。愛着があって手放せない私のバックは何回も直して使いたい。この会社はブランドバックを販売してはいませんが、メーカーが販売したバックの使用価値で販売後もビジネスは拡大していきます。使用価値ビジネスを意識しているかどうかはわかりませんが、バックの修復師を育成して、全国展開を図ろうとしています。今後とも注目していきたい企業です。

 

刺激を受けた企業訪問

中国市場をターゲットにして化粧品などの廃プラのリサイクル事業を立ち上げたベンチャー企業クロスボーダーの春山社長。先日、中古自動車部品のリサイクル事業で世界のリーディングカンパニーになった会宝産業さんにお連れしました。会宝産業さんの近藤会長と春山社長とのPOUマーケティングについての話しは、商品は異なっても同じリサイクル事業を行っている経営者同士。意気投合し、話しは尽きませんでした。使用価値のデータが重要な時代になると。消費者は使い終わった時点での使用価値(愛着度や満足度)が向上すれば、消費者は再びその商品を手にする確率が上がる。アップサイクル、POU、エンゲージメント、私の知らないキーワードを学んだ濃い1日でした。後日春山社長から、サービス・ドミナント・ロジックとPO分析に協力してもらっている一橋大学の藤川准教授の講演録(「サービス・ドミナント・ロジック 価値づくりへの未来へ」)を送っていただいた。以下は、講演録の一部を私なりにまとめたものです。

 

サービス・ドミナント・ロジック 価値づくりへの未来へ

これまで企業は、古典的なバリューチェーンモデルによって製品やサービスに価値をつくり込み、顧客に手渡す時点で1円でも多くの価値を認めてもらうことを目指してきた。そして顧客は、企業がつくった製品やサービスに対して、その対価を支払い、消費する主体であると考える。この世界観に立つと、顧客の手に製品やサービスが渡る瞬間に発生する価値、すなわち「交換価値」(Value in Exchange)を最大化することが経営活動のゴールになる。

一方、これからの価値づくりの考え方には、顧客が製品やサービスを使う過程で、企業の活動と顧客の行動がともに価値を生むという前提が置かれる。企業のみでは価値の最大化を実現できない。顧客と価値を共創する世界観に立ち、経営活動のゴールは交換価値の最大化に留まらず、その後の「使用価値」(Value in Use)や、共創の現場で顧客が個別に認知する「文脈価値」(Value in Exchange)を最大化することだと。

 

わかりやすい例えとして、ドイツのスポーツ用品メーカーadidasの「smartball micoach」の取組を紹介しています。販売するサッカーボールには12か所にセンサーが入っていて、このボールを蹴ると誰がどのように蹴っているのか、というデータが世界中のいろいろな所から集まってきてadidasに集積されている。バリューチェーンの対象顧客(サッカーボールの購買者)の消費行動をデータとして捉え分析可能にすることによって、今までadidasのお客様でなかったところからお客様が現れる可能性がある。「その分析可能になったデータにちょっとアクセスさせてもらえませんか?」とサッカークラブであったり、ワールドカップやオリンピックの事務局だったりとかが興味を示してくる。実際にこのボールを使うことになれば更にデータの集積が加速し、これまでのB2CからB2Bのビジネスへと大きく広がっていくことになる。

 

マーケティングを支える「価値」が変わろうとしています

これまでの内容のまとめとして、春山社長の起業したベンチャー(株)クロスボーダーエイジの紹介資料からの文章を引用しておきます。「消費市場は成熟し、すでに必要なモノはほとんど手に入る時代になりました。人々の関心は、モノの所有欲を満たすことから、経験や体験、思い出、人間関係、環境や社会への貢献などの目に見えない価値であるコトにシフトしており、すべての商品・サービスがモノからコトへと変わりつつあります。

企業が商品という価値を生産し、消費者が小売を通してその商品を購入して購入時点の交換価値を徐々に消費していくという、これまでのモノが支配していたロジックではコトの価値を測れなくなりました。

 

ではコトの価値は何を持って測るのか?

コトの価値はメーカー、小売という企業による文脈価値(ストーリー)と商品・サービスを使用する顧客における使用価値(エンゲージメント)によって共創、つまり企業と顧客によって共に創り出される。これからは、そういう共創価値がマーケティング活動を支えると私たちは考えます。さらに、生活用品の消費すら国境を越え、リユースとシェアリングが急速に普及する時代にマーケティングにかかわる人間はどう取り組めばよいのか?」

 

福井ベンチャーピッチに登壇した企業の目的は、自社に商品・サービスの期待値を大きくアピールし、全国に大きく飛躍するための投資を得ることでしょう。マーケティングを支える価値が変わろうとしている今。商品・サービスの期待値は交換価値だけでなく、将来における使用価値、共創価値を生み出していけるかどうかが大きなポイント。来年度の福井ベンチャーピッチに登壇する企業には、是非、この視点を持ってプレゼンして欲しいと願っています。