ケース研修(経営戦略企画)で学べること①

ITコーディネータになるための研修をケース研修といいます。ケース研修は、6日間の集合研修とe-ラーニングによる事前学習、研修後のレポート課題で構成されています。研修で使用する教材は、学ぶべきことの多い内容です。「ITC-PGL」に沿って、私が研修で重要だと思っているポイントに絞り、今回から連載で紹介していきます。ブログを読み、ケース研修の受講を検討していただければ、幸いです。

変革の認識

会社の経営層、幹部社員、社員など、各階層ごとに「気づき情報」を持っています。顧客の声、市場の変化、競合他社の動向、ITや経営の最新動向、改善すべき問題点、従業員の不満や愚痴など、多種多様な情報です。これらを収集し、機能ごとに形式知化して「気づき情報リスト」に集約します。

 

経営者の知らなかった「気づき情報」や集約された「気づき情報リスト」により、経営者の問題意識、危機意識に変化が生じ、経営者は変革への検討を開始します。

 

経営ビジョンで示される内容

企業変革の認識を持った経営者又はIT経営推進者、支援者であるITコーディネータが最初にやることは、企業理念・使命の確認です。「企業理念」とは、経営に対する普遍性を持つ信念や価値観(経営哲学)で、企業の創業目的であったり存在理由となったりするものをいいます。「使命(ミッション)」とは、経営理念実現のために果たすべき役割のことで、企業に関わる人や社会に対する誓約をいいます。

・どのような社会貢献をするのか(存在意義)

・どのような機能を提供するのか(事業領域)

・どのような組織文化を創るのか(経営姿勢)

・どのような基準で行動するのか(行動規範)

 

「経営ビジョン」とは、企業理念・使命を実現する過程の途中であって「ある時点までにこうなっていたいという到達点」を指します。経営ビジョンの具体的な内容は、経営的な数値目標、これを経営目標といいます、と「あるべき姿」で示されます。「あるべき姿」はD.F.エイベルの事業ドメイで記述します。

 

・どのような顧客層(ターゲット)の

・どのような顧客機能(ニーズ)に向けて

・どのような技術(ノウハウ)に基づく商品・サービスを展開するのか

 

問題、原因、課題の識別

経営には多くの困った問題が発生します。特に経営上のお困りごとになる問題については、なぜ問題が発生するのか。なぜ?なぜ?なぜ?を繰り返して問い直し、問題を発生させる原因を特定します。

「工場の生産性が低い、という課題があります」

「社員の仕事に対するモチベーションが低いのが課題である」

「社員を教育し、機械操作の熟練度を高める必要がある」

「これに加えて、熟練度の応じた給与体系を作ることも必要である」

通常、このように言う場合が多いのですが、これを問題、原因、課題に識別して整理し、次のように表現します。

 

「工場の生産性が低い、という問題があります。この問題の原因は、社員の仕事に対するモチベーションが低いことです。社員を教育して機械操作の熟練度を高め、熟練度に応じた給与体系を作ることが課題です」。

 

ケース研修では、問題の根っこにあるのが原因、原因を取り除き問題が発生しないようにすることを課題として識別して考えます。

 

経営環境分析をするとは

経営者が実現したい経営ビジョンを構築するために、必要な情報・データを収集し、「SWOT分析」で経営環境分析を実施します。必要なデータの収集方法として、内部環境情報にはM.E.ポーターの「バリューチェーンモデル」を使います。また外部環境情報のミクロ環境にはM.E.ポーターの「5つの競争要因」、外部環境情報のマクロ環境には「PEST」(P:政治・政策、E:経済状況、S:社会・文化、T:技術革新)を使います。

 

これらの内部と外部の経営環境情報を収集し、SWOT分析を使って経営環境を分析するわけですが、ともすれば、SWOT分析は4つのマトリックス内(S、W、O、T)の情報整理で分析したつもりになるものです。

 

しかしケース研修では、それぞれの情報間の関係性を関連図で明らかにし、本質的な強み、弱みを見極めて機会と脅威に対してどのような課題設定ができるのかを分析します。ここが経営環境分析の重要なポイントになります。

 

経営課題とCSFをビジネスモデルで検証

経営課題と「CSF」の意味を分かりやすくするために、経営課題」は「社員を教育して加工技術の熟練度を高める」という行動系で表現します。CSFはいくつかの経営課題が解決された結果として「社員のモチベーションが向上して、工場の生産性が向上している」という状態系の表現にしています。

 

SWOT分析から「クロスSWOT分析」を経て抽出された課題とCSFが経営ビジョンの実現に有効かどうかを「BSCの戦略マップ」で検証します。方法は、経営ビジョンを達成するために抽出された各経営課題やCSFをBSCの戦略マップ上の4つの視点にマッピングし、因果関係や関連を図式化します。

 

なぜその戦略目標(経営課題、CSF)が必要なのか(Why)⇒なぜならこの戦略目標が達成できるから(Because)、というようにそれぞれの戦略目標が上位階層の戦略目標と因果関係が成立しているかどうか、を検証します。

 

検証を繰り返し、最終的に財務の視点で掲げた利益目標(ケースの場合、5年後100億円、利益率3%)が達成できるシナリオを作っていきます。戦略の全体像を把握でき、戦略策定の実効性を認識するために有効な「フレームワーク(手法)」です。

KGIとKPIで指標付けした経営戦略企画書

経営戦略策定の最終章です。経営戦略企画書が「絵にかいた餅」にならないように実行可能な計画にする最も重要なプロセスです。BSCの様式を使って作成する経営戦略企画書には、これまでのプロセスで確定したCSFごとに「KGI(目標指標)」「KPI(業績指標)」設定します。CSFは、経営ビジョンを実現するまでの中間のあるべき姿でもあります。ここでは、BSCの4つの視点の縦方向の因果関係とCSFから実行項目までの横方向の整合性を考えながら作成することが求められます。

 

ここでの重要なポイントは、目標指標であるKGIが達成されるためには、どのような業績指標KPIを設定して管理すればよいかを考えることです。KPIが達成されれば、自ずとKGIも達成されるようなKPIを設定できるように、私のケース研修ではKPIをKGIの「先行指標」と言い換えて使うようにしています。

ケースの経営目標は、

・売上高(目標:5年後100億円)

    =既存事業売上高 + 新規事業売上高

・利益率=営業利益額/売上高(目標:5年後3%)

        =(売上高 - 売上原価 - 販管費)/売上

        =(売上高- 変動費 - 固定費)/売上高

 

このように、経営目標の数値(財務の視点のPGI)を計算式に展開し、KGIに影響を与えるいくつかの要因に分解することがポイントです。利益率でいえば、売上原価、販管費、変動費、固定費などです。これらの要因に関係する指標をKPIとして設定し、これらのKPIを間接的に管理していけば、財務のKGI指標の一つである利益率5年後3%を実現できることになります。このKPIの設定は非常に難しいですが、ここが頭の使いどころ、知恵の出しどころなのです。

 

(次回はIT戦略企画策定について)