人材育成、何とも悩ましい課題・・・

平均への回帰

人材育成は、経営者や部下を持つ上司にとっては最も難しく、悩ましい課題です。人不足で思うように人を採用できない中小企業にとっては、現有社員が離職することなく、モチベーションを維持し、パフォーマンス(業績)を上げてもらうことが重要な経営課題です。そのためには、どうすればよいのだろうか。異なった視点で書かれた3冊の本からは、人材育成のヒントが得られます。1冊目は、『ファースト&スロー あなたの意思はどのように決まるのか?』(ダイエル・カーネマン著)。親は子供に、上司は部下に良い結果が出なかった場合には努力の足りないことを厳しく叱り、反対に良い結果を出したときは誉めます。時には、監督はスポーツ選手に体罰を与えて能力向上につなげようとします。これに対し『ファースト&スロー あなたの意思はどのように決まるのか?』(ダイエル・カーネマン著)の第17章にはこのようなことが書かれています。誉めても叱っても結果は同じだと。これは「平均への回帰」と知られている純粋に統計的な現象であって、因果関係を示すものでもなんでもない。誉めると次に失敗し、叱ると次には成功すると。


コンパ経営

酒を飲みながら本音で語る「飲み会」。世代間ギャップの象徴となり、上司が声をかけても部下に断られるようになって昔ほど多くはないですが、最近では逆に“飲みニケーション”の効果が、若手にも見直されつつあるようです。『稲盛流コンパ』(北方雅人・久保俊介著)は、京セラで日々行われている最強組織をつくる究極の飲み会コンパ。コンパによって社員の考え方、組織の在り方を大きく変わったのはなぜか、が書かれた本です。社内で行われるコンパは参加費用は個人の自己負担、基本的に全員参加です。各組織が同じ目標に向かって、みんなの気持ちを一つにする行為がコンパという形で位置づけされています。「ふだんの会議では、どうしても形式的な話に追われてしまう。お酒が入ると、人は本音で話しますから、腹を割って意見を交わすことができるのです。コンパを通じて部下の適性を見極めることもできる。アイツはふだん口数が少ないけど、強い意志を持っているなとか、こういう面が得意なんやな、といった意外な一面を知ることができます。日ごろは目の前の仕事に追われて、一人ひとりの社員とじっくり話をする機会が少ないですから」。


ABCモデル

人の行動原理を説き明かしていく行動分析学という学問があります。「ABCモデル」と呼ばれています。

Aは“Antecedents”=誘発要因、B“Behavior”=行動、Cは“Consequences”=行動結果の意味です。すなわち、人の行動には、何らかのきっかけ、すなわち誘発要因がある(A)。そのきっかけで行動が引き起こされ(B)、行動の成り行き(C)によって、再び同じ行動が将来生起するかどうか決定されていくというものです。このモデルに従えば、やっても無駄と思えばその行動は少なくなる。結果が自分にとってメリットのあるものであれば、人は行動を繰り返す、ということになります。『辞めさせないマネージメント 行動科学を使えば若手が自ら成長する』(石田淳著)は人の行動にフォーカスした新しい人材マネージメントを提唱しています。単純な例で言えば、あなたが暑い部屋に入ったとします。そのときあなたは、「部屋が暑いと感じ」(A=誘発要因)、「窓を開けるという行動をとる」(B=行動)、その結果「部屋は涼しくなった」(結果)。あなたは、「涼しくなった」という好ましい結果があったことによって「部屋が暑い」ときには、「窓を開ける」という行動をいつもとるようになる、ということです。


価値観に根差した誘発要因

社員とのコミュニケーションをとるために、月に1回は全社員との定例ミーティングをやります。ときおり、個別に社員とじっくり会話をし、社員の話しを聞くようにしています。年に数回は飲み会をやっています。よくやってるねと誉めたり、至らない点を指摘・アドバイス、説教したり、時には注意したり、漠然と前向きに頑張ろうと言ってみたり。こんな日常の社員への接し方を見直す好機となった3冊です。人と会話する、コミュニケーションを重ねるということの意味は、漠然と話をしたり聞いたりするのではなく、人の価値観を知るということに他なりません。人は皆、それぞれ違った価値観を持ちながらも、周りの人との調和を考えながら仕事をしているはずです。そして自分の価値観は行動の誘発要因に大きく影響を及ぼしています。人の本音を語ってくれる飲み会。大事にしたいと思います。そして人の価値観に根差した行動を、会社の方向性と同期した良き行動に変えてもらうためには、社員の行動結果が喜ばしい結果となるような仕組みをいかに作り込んでいけるか。私の大きな課題です。