補助金採択への道、それは事業コンセプトの明確化

革新的サービス

「ものづくり・商業・サービス革新補助金」の第一次募集が始まりました。規模は1,020億円。採択競争倍率は2.5倍程度。補助率2/3。補助上限額1,000万円。中小企業にとっては、すごく魅力的な国の支援制度です。この補助金の対象となるのは、1.ものづくりの革新、2.革新的なサービスの創出、という二つの柱となる事業(正確には3つ)です。今年は「革新的なサービスの創出」という定義を「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」で明確にしています。従来も二つの柱となる事業に対し、IT活用(ITシステム)も対象となっていましたが、ガイドラインでは、ITを活用して付加価値を向上した事例、生産効率を高めるた事例が多く掲載されており、どのようなIT投資がこの補助金の対象なるのかが、良くわかります。そして申請するにあたり、事業コンセプトを確立し、誰に・何を・どうやって事業をするのかを明確にすることを求められています。


事業コンセプトの確立

「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」の中で、”事業コンセプトを確立し、誰に・何を・どうやって事業をするのかを明確にすること”について、次のように書かれています。少々長くなりますが、紹介しておきます。

1.自社の理念に立ち返る

そもそも自社のサービスは何のためにあるのでしょうか、その理由をあらためて考えてみましょう。例えば、「顧客の抱えている課題を解決するため」「地域社会の課題解決のため」「社会経済の変化への対応のため」等があります。これはビジネスを考える上で最上段に位置する大義であり、経営における哲学や理念になります。自社の理念を見直すのであれば、「ニーズを見つけ出す」ことが重要です。現代では、モノもサービスも情報も溢れるほど豊富にあり、一昔前のように「冷蔵庫が欲しい」「テレビが欲しい」といった単純で明確なニーズを見つけることは困難になっています。人々も「一体何が欲しいのか」と問われても、簡単には答えられないでしょう。単純に既存サービスや商品を高機能化、高品質化しても、営業や宣伝に力を入れて知名度を上げても、消費者が求めていなければ、売上向上には結びつきません。「いまだ満たされていない社会のニーズ」を掘り起こしてみましょう。

2.事業コンセプトを確立する

では、自社が何を目的とする会社かといった理念を事業のコンセプトに落とし込むにはどうしたらよいでしょうか。「誰に」「どのようなサービスを」「どのように」提供するのかを考え、常に一貫させることが何よりも重要です。

顧客の属性によりサービスの内容は変わりますし、どのように提供すべきかについても変わります。逆に言えば、どのような方法でサービスを提供するかにより、そのサービスを使える顧客も変わってきます。また、その方法論は技術の進歩により変化しますし、顧客自身も技術や流行にあわせて変化しています。これらが一致できているかどうか、あらためて自社の事業コンセプトを確認してみましょう。

◆「誰に」を考える

顧客の範囲や属性が広くなれば、それだけ多種多様な期待やニーズに応えるためにサービス・商品は最大公約数的なもの、「よくある当たり前のもの」となり差別化が難しくなります。従って、まず自社の提供できるサービス・商品の特性を見極め、対象とすべき顧客層を特定しましょう。

その上で、今自社の顧客となっている層を超えた潜在的な顧客を顕在化することも必要です。同一地域にいるにも関わらずこれまで対象にできなかった顧客や、商圏の外と認識していた別の地域の顧客を開拓することが考えられます。こうした方策によって、サービス・商品の提供範囲が拡大し、生産性を向上することが出来ます。

◆「何を」を考える

次に、前項で特定した顧客のニーズにあったサービスを考えましょう。また、その顧客にとって、他社や、自社が過去に提供していたサービスとの差別化要素を作り出しましょう。これにより顧客の期待価値を上げることが、生産性向上につながります。さらに、常にサービス・商品の内容やその提供方法を革新し、顧客の期待価値を上げ続ける努力が必要です。一方で、均質で安定したサービス・商品を提供するなど、サービスのブランド化を図ることで顧客の信頼を獲得することも有効な手法です。いずれにしても、重要なのは、顧客のニーズを常に把握し、提供するサービスの品質がそれに合致し、また上回るようにする努力が不可欠です。

◆「どのように」を考える

第三に、上記で検討した顧客と、その顧客にあったサービスを、どのような方法で提供するかを考えましょう。まず、同一・類似のサービスを提供する他の事業者との競争の中で、より多くの顧客に選択してもらうためには、サービスの内容について十分な情報提供を行うことがポイントです。サービスは、顧客が事前にその価値や品質を知ることが困難だと言われていますが、顧客が事前に十分な情報に基づいて判断でき、そのサービスがニーズに沿うものであれば、顧客は無駄な出費をしなくて済みますし、満足度も向上します。サービスの提供においては、他の事業者と連携することも有効です。関係するサービスを包括的に提供することで顧客が享受できるサービスの幅を増やすことが出来れば、当該サービス全体に係る顧客の期待価値を高めることも可能です。

こうして、「誰に」「何を」「どのように」提供するかという事業コンセプトが定まったら、「どうやって利益を出すか」を含めたビジネスモデルを検討しましょう。サービス・商品の価格やコスト、収入の流れ、販売チャネル等を検討し、事業が成立する(利益が出る)仕組みを構築しましょう。事業コンセプトをビジネスモデルに落とし込んでいくために、例えばマーケティング・プロセス(マーケティング戦略 の立案から実行にいたるまでの流れで6つの流れ

に分けられる)を検討することで、その仕組みを構築していくことが挙げられます。


価値提案キャンパス

事業コンセプトを考えるための手法に価値提案キャンパス(VPC Value Proposition Canvas)というのがあります。VPCでは、次の①、②、③の項目について顧客を分析し、④、⑤、⑥でどのような価値ある商品・サービスをどのような方法で提供するかを考えます。

① 顧客はどんな仕事・業務を行い、課題は何でしょうか?

② 顧客が「うれしい」と感じることは何でしょうか?

③ 顧客が「いやだ」と感じること、お困りことは何でしょうか?

④ どのような製品・サービスを提供するのか?

⑤ 顧客の便益を増やすための手段、方法は?

⑥ 顧客の悩みを解決するものは?


アスクル

顧客を絞り込み、顧客のニーズを探り、顧客に対しどのような価値ある商品・サービスをどのような方法で提供するかを定義することが事業コンセプトを確立するということです。素晴らしい事業コンセプトの事例でよく語られるのは、アスクルです。ほとんどの中小企業は利用していると思います。それほど提供しているサービスが革新的だということです。アスクルルの企業理念は、「お客様のために進化する」。事業コンセプトは、「総務課の購買業務を一冊のカタログですませられ、かつ注文した商品が“明日来る”」です。では、どのようにしてターゲットとする顧客セグメントを従業員30人以下の小規模事業所に絞り、ターゲット顧客をパートで経理事務を任されているスタッフに設定し、この事業コンセプトを確立したのでしょうか。アスクルは文房具メーカーであるプラスが新規事業として立ち上げた会社です。アスクルを立ち上げ、事業コンセプトを確立した当時の状況は、『競争戦略のストーリー』(楠木建著)に書かれています。書籍から引用し、アスクルの事例をVPCにあてはめ考えてみたいと思います。

① 顧客はどんな仕事・業務を行い、課題は何でしょうか?

他の社員に頼まれ、近所の文具店に買い出しに行く。しかし経理の仕事があるので、文具店に行くのは、「どうしても必要なときに、仕方なく行くところ」と考えている。出来ることなら、まとめ買いしたいが、事務所に置いておくスペースがない。

② 顧客が「うれしい」と感じることは何でしょうか?

事務所には在庫するスペースがないので、ボールパン1本からFAXで小口注文できること。どんな文房具も注文できたり、文具以外も扱っていると助かる。直ぐに(明日)届くと嬉しいな!

③ 顧客が「いやだ」と感じること、お困りことは何でしょうか?

経理の仕事を中断して文具店に行くのは、仕事の効率が悪くなる。社員に頼まれる文房具は多種多様なので、買うものをメモするのが大変。オフィスはエレベータのない3階にあるので、重い文房具を持って上がるのはつらい。文具以外のかさばるトイレットペーパーや重いペットボトルを買い出しするのは文具以上につらい。

④ どのような製品・サービスを提供するのか?

あらゆるメーカーの文具。文具以外の商品。注文して翌日届けるサービス(「明日来る」)。(最近は)インターネット注文サービス。

⑤ 顧客の便益を増やすための手段、方法は?

翌日配達を可能にするため、全国に配送拠点としてエージェントを整備。地域エージェントを使ってターゲットとする事務所の発掘。事務所からFaxで注文できる仕組みの構築。

⑥ 顧客の悩みを解決するものは?

Faxなどで簡単にボールペン1本から注文可能。親会社プラスが取り扱っていない文具も品揃え。文具以外の品揃えを拡大。注文して翌日に届ける。


ご支援します

補助金採択への道、それは事業コンセプトの明確化。今回のブログのタイトルです。国は385万社あるとされている中小・零細企業の稼ぐ力を高めるため、助成制度を充実し、これまでにない大きな予算をつけています。しかし単に国からお金がもらえるのなら、事業のコンセプトを見直し、あるべき将来の事業に積極投資するのではなく、目先の設備投資に有効に使わせてもらおう、の姿勢の企業が多いのも現実です。そうではなく、国のガイドラインに沿って事業コンセプトを確立し補助金を申請しようと考えている中小企業事業者の方、ご支援します。声をかけてください!