身近な成功事例を戦略ストーリーにマッピング

18年前に日本に進出し、今や全国1,000店舗を展開するようになったスターバックス。コーヒーを毎日5杯以上は飲む私にとって、外出したときのスターバックスは、有難い存在です。そこで飲む深煎りで風味のあるコーヒーは、疲れを癒してくれます。このスターバックス、企業の事業戦略を考える上で、すごく重要なことを教えてくれています。事業戦略に重要な要素は、二つあります。一つ目は事業のコンセプト、これは顧客に提供する価値とも言い換えてもよいと思います。そしてもう一つは戦略の核となるクリティカルコア、これはだれも真似のできない競争力と言い換えてもよいでしょう。この二つ、スターバックスは突出しているのです。

 

 まづ事業コンセプト。スターバックスのCEO、ハワード・シュルツさんはコーヒーを売っているのではない。売っているのは、職場でもなく家庭でもない「第三の場所」だと言っています。自宅は「第一の場所」、職場は「第二の場所」。「第三の場所」とはイギリスのパブやフランスのカフェのように、不特定の人々が気楽に集える空間のことを指しています。そこに来てほしい人(顧客)は、社会全体の文化や価値観、規範が成立しづらくなる価値観の断片化により、会社や家庭でストレスを感じている人だとしています。事業のコンセプト、すなわち顧客に提供する価値の設定が素晴らしいですね。たしかに同業のドトールと比べると、ゆったりと時間を過ごせる雰囲気を感じます。私なんかは会社の延長のごとく、ノートPCを鞄から取り出し、カチュカチャやったりしてますが、これはハワード・シュルツさんの事業コンセプトとは相いれないことなんですね。

 

 もう一つ、クリティカルコア。核心的競争力、もう少し言い換えれば、だれも真似のできない競争力です。これについては、『ストーリーとしての競争戦略』(楠木 建著)から多くを引用して紹介します。クリティカルコアとは、同業他社や業界からみれば「非常識」なこと、「一見して非合理に見える」ことです。そのため、競合他社は手を出さない。結果、独自の競争優位を構築できるということになります。あとから同業他社が気づいて、マネをしようとしても、なかなかできない。どうしてでしょうか?クリティカルコアとは、その会社がもつ様々な構成要素と密接にリンクし、そのミッションやコンセプトとの「一貫性」があって、はじめて収益が出るというものなので、一朝一夕で作れるものではないからです。著者は、競争優位で持続的な成長は続ける企業には、必ず戦略的なストーリーをもっていると。戦略的なストーリーには、

1)競争優位のためのアプローチ

2)コンセプト

3)構成要素

4)クリティカル・コア(Critical Core)

5) 一貫性

の5つの柱が必要で、中でもクリティカル・コアと一貫性が非常に重要だと書いています。スターバックスの話に戻りますと、直営店舗方式がスターバックスのクリティカルコアになります。これが、居心地の良い店舗設計、店舗の立地、必要以上の店舗数、スタッフの教育、メニューという構成要素につながり、コンセプトである「第三の場所」を提供しているのです。

 

 安倍政権の中小企業政策の柱は、稼ぐ力をつけることです。それも持続的な稼ぐ力です。それを実現するには、事業モデルの構築と事業戦略が最も重要になってきます。石川県に私がIT経営を支援した企業、K産業があります。持続的に、売上と利益を伸ばしています。このK産業を戦略ストーリーにマッピングし、研修教材を作る予定です。中小企業のIT経営を支援するITコーディネータ(ITC)向けの研修教材です。身近に存在する企業の成功事例に学ぶ研修によって、ITC支援の成果が出て、中小企業の稼ぐ力がついてくることが研修の目的です。これから準備に入ります。来年早々には研修スタートしたいと思っているところです。