論理構造と課題解決、説得力との関係

先日、オバマ大統領が慌ただしい日程で訪日しました。訪日に合わせ、妥結に向けた日米閣僚級のTPP交渉がありましたが、交渉結果について玉虫色の共同声明が発表され、交渉継続となりました。TPPの課題は太平洋を挟んだ12か国の貿易関税をなくした自由貿易化であり、日米間のTPP交渉は、この課題解決のための5項目の関税重要品目をめぐる交渉です。しかし、TPP全体で見ると大きな目標があるようです。最終目標とするところは、日米を中心に、太平洋を挟んだ諸国の結束によって中国を封じ込め、安全保障と経済統合とも言われています。林浩一著『ロジカルシンキング』を参考にしながら、交渉内容を論理の構造と課題解決提案パターンに当て嵌め、勝手に推測してみたいと思います。

 

 『ロジカルシンキング』の一つの大きな柱は、論理の構造です。人に自分の考えや提案を伝えるとき、伝える内容をうまく整理し、伝わりやすくする手法としてロジカルシンキング、論理思考というものがあります。論理思考には、論理構造が整っている必要があります。論理構造とは、結論とそれを導く根拠です。So What?(何が言いたの?)とWhy So?(なぜそうと言えるの?)です。Why So?(根拠)を示すには、通常、「演繹」「帰納」「仮説推論(仮説検証)」の3種類の方法が使われます。それぞれ、演繹法とは「AならばC、BならばC、よってAならばCである」。いわゆる三段論法の手法です。帰納法とは「これまで起きてきたすべての例でXが成り立つときにYだった。よって今回Xが成り立つのなら、必ずYである」。繰り返し起きていることを一般化し、根拠付けの基本原理とする手法です。仮説推論とは「XがYによって起きていると考えると説明がつく。よってXはYによっておきている」。うまい説明をつけることで、根拠に強力な説得力を持たせます。一方、検証作業で仮説が正しいことの間接的な証拠の積み上げを行います。

 

 もう一つの柱は、課題解決提案のための構造です。

通常、なんらかの提案をするとき、骨格となるのは課題解決です。課題解決にはの三つのパターンがあります。一つ目は、逐次解決型課題解決。二つ目は、原因探究型改題解決。三つ目として、目標展開型課題解決です。逐次解決型課題解決パターンは、迅速に手を打っていく必要なケースに適用します。起きている問題が明確で、対策によって確実に解決できることが求められます。原因探究型改題解決パターンでは、繰り返し起こる問題の原因を掘り下げ、根本的な解決を行う。日本の製造現場で行われているQC活動がベースになっています。最後の目標展開型課題解決は、あるべき姿(目標)を目指して、CSF(重要成功要因)を抽出し、CSFを実現する解決策を構造化(階層化)していきます。

 

 交渉はお互いの課題解決の相互提案です。交渉の結果は、当事者の力関係と交渉テクニックの巧拙により決まります。では今回の日米TPPの交渉はどうだったのでしょうか。提案内容には当然ながら論理性を持たせ交渉に臨みます。課題解決には3つのパターンを適宜使います。当面の問題解決には逐次解決型を、最終目標に向かっては目標展開型を。そして、日米両国のコンテキスト(前提条件)の違いを乗り越える妥協点を探りながら、「サラミを切るような」と表現された小出しの提案と妥協を積み上げていく。これはあくまでロジカルシンキングのお遊び的適用ですが、ビジネスのいろいろな場面に適用し、効果を出せる考え方でもあります。7月29日からふくい産業支援センターで4回シリーズで始まる「SE・営業のための提案スキル向上研修」、7月5日から石川県地場産業振興センターで6日シリーズで開催されるITC認定用「ケース研修」には、このロジカルシンキングの考え方を取り入れています。どちらも、論理構造は仮説推論(仮説検証)、課題解決は目標展開型パターンを使います。しかし、人を説得させるのは、論理や課題解決の提案内容よりも、別なところにあります。人の心を動かす要因は? 是非、受講して掴みとってください。満足度、保証します!