新しいIT投資マネジメントとは?

IT 経営を確立するためには、適切なIT投資評価にもとづくIT 投資マネジメントが課題として指摘されています。IT 投資にかかわる評価は、一部の企業では、経営者が IT投資を実施するか否かを判断するための事前評価が行われてきました。しかし、今日必要とされているのは、経営課題に対応したIT投資評価です。 これまでのIT投資は、業務の効率化を主たる目的としており、作業時間やコストの削減幅といった効果を定量的に把握できるものが多かったのですが、今日では、新規ビジネスモデル開発のように経営戦略の実現への寄与を主たる目的とするIT投資が増えています。このような投資案件に対する評価方法が求められています。そのため、 IT投資の効果を経営戦略との整合性の視点から評価することが必要となっているのです。

 

 昨年9月より約1年間、私も参画して福井県立大学の南保研究室とNPO法人福井県情報化支援協会とが「IT 経営の実態と普及に向けての課題に関する共同研究」を実施しました。得られた知見は、IT に対する経営者の意識は、大きく2つに分かれている。IT に関して消極的な経営者は、「IT は組織を維持するためのコストである」または「ITは業務効率を図るための手段であり、人件費コストをIT コストに転換するだけ」というように、IT はコストであると考えている。一方、IT に関して積極的な経営者は、「IT は売上を増加させるための道具である」または「ITは売上を増加させるために必要な顧客提供価値を強化するための道具である」というように、IT は投資であり投資した分の回収は行えると考えている。こうした経営者の考え方の違いが、IT 経営が成果を生みだすかどうかの大きな分岐点である・・・。経営者のIT に対する意識を変えることが、IT 経営を普及していくためには大きな課題である。

先日金沢で、ITコーディネータ協会主催のセミナー「経営戦略実現のためのIT投資マネージメント」(講師 宗平順巳氏)が開催されました。最近のIT投資評価、IT投資マネジメントの基本となる考え方 、非常に参考になるものでした。以下、セミナー内容の要約です。IT 投資マネジメントについて先進的に取り組んでいる企業の事例研究をとおして、IT投資マネジメントの考え方が整理されてきた。共通の特徴として、IT投資と業務改革を両輪でとらえている。 IT投資のみを取り出して効果評価はしていない。投資効果の目標値については利用部門が責任を持つ。インフラ投資、人事経理など支援業務、コンプライアンス関連については、ビジネス系とは異なる評価体系を持つ。一般に IT 投資のテーマを考える場合に、添付図に示すように、経営戦略を展開してシステム化課題を考えようとするが、この部分をうまくつなげることができず、結局は、ミドルアップまたはボトムアップで出てきたテーマを経営戦略となんとか紐付けることで、戦略との関連性を担保したことにしている企業が多い。 これに対し、新しい考え方は、IT投資と戦略との関連をBSC(バランススコアカード、戦略マップ)で構造化、見える化して評価しようというものである。経営戦略を実現するための新しいパフォーマンス目標がスコアカードとして提示され、目標の達成は新しいビジネスプロセスとそれを支える新しい情報資本、人的資本、組織資本(この3つをインタンジブルズと呼ぶ)に

よって実現される。IT 投資テーマは、必要とされる情報資本と現在の情報資本との ギャップを認識することで設定する。この考え方をもとにすると、先進企業の事例にみられるように、「IT投資のみを取り出して評価を行うということに意味がないこと」、すなわち、「業務改革と IT投資を両輪として考えること」の妥当性を示すことができるできる。

 

 米国でのIT投資の成功企業分析での結果です。コンピュータ資本が高く、分権化が進んでいる企業では市場価値が向上している。この条件のいずれかが欠けても市場価値はあまり高くならない。市場価値はIT投資だけではなく、分権化が推進されて向上する、ということです。分権化とは情報の共有によるコミュンケーションの活性化、人、組織の活用ということです。IT 投資マネジメントについて先進的に取り組んでいる企業の事例研究でも、共通の特徴として、投資効果の目標値については利用部門が責任を持つことが重要といわれています。人・組織・ITの三位一体の経営改革、IT投資マネジメントも同じことが言えます。