直感を鍛えねば・・・

「大局観」。これは先日金沢市のANAクラウンプラザホテルで開催された、将棋3冠 羽生善治氏の講演会テーマです。講演のキーワードは、直感、大局観、読み、長考に巧手なし、でしょうか。この講演会は某生命保険会社が顧客企業向けに企画したものですから、自社の経営に役立つヒントはないかと、会場には多くの経営者が聴講していました。数百手先を読むと言われている天才棋士羽生善治氏。将棋を指すときの思考プロセスやオツム(脳)の構造は、私たち凡人とは違うはずです。大きな興味を持って聴いた講演の内容は、脳科学の成果を証明するような、企業経営や経営者の思考にも通ずるところがあるものでした。


 講演で羽生氏は「私は数百手先を読みながら、将棋の手を打つように思われているようですが、実は直感と大局観を大事にして将棋をします。ベテランの棋士の方の多くは、私と同様、直感を大事にしているようです。一方、若手棋士は経験が浅い分、読みを武器としています。長考しても、いくつかの打ち手の選択に迷い、堂々巡りしているだけで長考に巧手なしです。1時間以上長考しても、素晴らしい手が打てたことはありませんでした。今振り返ると、打った手は初めに考えた手が多かったです」と。

 

 では「ひらめき(読み)」と「直感」の違いはなんだろうか。脳の研究者 池谷祐一氏の著書『脳には妙なクセがある』には、このように書かれています。「ひらめきは思いついた後に、その答えの理由を説明できる。ひらめきは、理詰めで正答が導ける場合と、相手の出方を推測しながら判断しなければならない場合がある(台湾大学 黄博士の研究より)。一方、答えの正しさが漠然と確信できるのが直感で、直感は意外と正しい。直感は脳が実際に持つ能力で、特徴として、判断が速い、ほぼ正しい、経験によって鍛えらる。この点が、単なるヤマ観やでたらめとは決定的に異る」。羽生氏が言うように、直感力は、経験がものをいいますから、年齢とともに直感や大局観(全体を見渡し、戦略的に考えること)に頼った将棋になるのでしょう。


 会社を経営していると、毎日が安定ということはありえません。会社を取り巻く経営環境は常に変化し、その都度、何らかの判断・決断をする必要が出てきます。判断・決断がもたらす結果を深く読むため、いくつかの選択肢を沈着冷静に熟考する。そして判断・決断する。これが経営者のあるべき姿でしょうが、優れた経営者は、直感で即断・即決するともいわれています。羽生氏は、長考してもいくつかの選択肢を堂々巡りして、決めることが出来ない、と言っています。では直感での判断・決断は正しいか。それは、多くの経験を積み重ね、本来脳が持つ能力を研ぎ澄まし、直感を鍛えた人にのみ許されたものでしょう。直感を鍛える! 必ずしも直感が期待する結果をもたらさなかった私にとって、まだまだ鍛えが足りないことを実感した講演会でした。