世代間の競争を加速するクラウド時代?

昨日のJR北陸線の車中でのこと。大学生と思われる若者数人(着ているジャジーには関西の有名私立大学名が・・・)が同じ電車に乗り込んできました。その中の一人はなにやら熱心に本を読んでいます。今時の若者には珍しく読書かなとおもいきや、『公務員試験過去問題集』。アベノミクスは若者には関係なく、自分の将来は安定志向で決まりと。ノマドワーカーという働き方があります。最近私は、時々この働き方をします。”ノマド(nomad)”とは「遊牧民」の意味で、自宅や会社のオフィスではなく、喫茶店やファーストフード店、図書館などでノートパソコンやタブレット型端末などを使って仕事をする人を言います。働き方の大きな変化としてノマドワーカーという言葉が出来てきましたが、その背景にあるのは、ITの急激な進化とクラウドコンピューティング、クラウドサービス(以下、クラウド)の普及です。企業での働き方はどう変わっていこうとしているのか、企業で働く社員の労働意識とともに、考えてみたいと思います。


 「46歳が一番不幸」という記事がイギリスの経済誌「エコノミスト」に掲載されました。この記事はアメリカ人対象の調査結果ですが、人生の節目に当たる46歳が人生で一番不幸な時期を過ごしているということらしいです。46歳は日本では「バブル世代」と呼ばれています。日本の高度成長を必死で支え続けてきた団塊の世代、この団塊の世代を上司に持ちバブル経済の中で仕事をしてきた「バブル世代」(40代)、そして青春時代にバブルが崩壊し就職氷河期を体験してきた「就職氷河期世代」(30代)、失われた20年の長いデフレ時代に育ち親の苦労を見てきた「失われた20年世代」(20代)。それぞれの世代が体験してきた時代環境は、その世代の労働観を作ってきました。団塊の世代から失われて20年世代の20代まで、この間、日本の経済環境は大きく変わりました。劇的な3つの変化は円高、グローバル化、IT化です。バブル時代に勝ち組だった日本のビジネスモデルは、日本人の所得が上がり、円高が進んで成り立たなくなり、中国や韓国にその立場を譲りました。そしてグローバル化により、ビジネスモデルの転換が起こりました。特に製造業における国内の重層的な下請け構造はアジア諸国を含めた国際分業に広がり、特に中小企業においては、下請けという産業自体が崩壊しようとしています。これらの経済環境の劇的な変化を後押ししたのがITの進歩によるIT化の普及です。


 企業成長にはIT化は必須です。IT化によって、企業は年功序列の価値観を変えようとしています。そしてIT化の方法も従来とは大きく変わろうとしています。IT化の方法であるクラウドの波は今までのIT化と全く違う変化を社会に及ぼそうとしているのです。これまでは、システム導入は通常は5年程度の償却を前提に行ってきました。結果、費用のことを考えると5年間はシステムの大幅な変更ができず、悩むことになります。しかし、クラウド時代は状況が違ってきます。初期投資も無く、情報システムを使いたいときすぐに使えるようになっています。さらに、従来は専用の端末を高額で導入する必要がありましたが、キーボードに馴染みのない職種でも簡単に操作ができて、安価な情報端末で情報システムを構築することが可能になりました。特に手持ち資金が潤沢でない中小零細企業は、クラウドの持つ恩恵を受けることができるようになりました。必要なのは資金ではなく、新しいものにチャレンジする経営者のマインドです。前向きなマインドさえあれば、大企業と同じようにIT活用にチャレンジすることができるのです。そして、結果として会社を変えていくことが可能となってきたのです。

 

 クラウドの仕組みは、今まで企業内でデータやサーバの管理をしていたものをインターネット空間のどこかの国内外のデータセンターで運用するように変えたものにすぎません。革新的な技術ではありません。重要なことは、技術ではなく、運用の違いがもたらす劇的な変化です。簡単に言うと、サーバがインターネットにあることで「知識がいつでもどこででも手に入る」ことがクラウド活用の肝なのです。今までも会社の外から、社内の情報を見ることができる企業はたくさんありました。しかしそれはサーバが社内にあり、情報を社内に覗きに行っていたに過ぎません。クラウドの場合は、サーバが社内にはありません。つまり、いつでもどこでも何でも情報が手に入る状態がデフォルト(標準の状態)です。

 このクラウドのデフォルト、いわゆる標準の状態の違いがビジネスに大きな影響をもたらします。今までのように、ビジネスに必要な知識やスキルを覚えた者が優秀になるというわけではなく、今後は必要な知識を早く検索し、それを応用して新しいビジネスを創造する人が優秀ということになってくるでしょう。すなわち経験ではなく情報の活用が企業の優位性に繋がるのです。経験を蓄積し直感力で勝負していた世代とクラウド今ピュティングを上手く活用して企業の期待に応えようとする若い世代との競争が始まっているということです。そして経験という価値の暴落で年功序列も崩壊し、厳しい時代に入っていく。思い起こせば、クラウドもインターネットも無かった頃、仕事に必要な知識は、専門書を読んだり先輩から教えてもらうかして覚えていました。知っているというだけで先輩の存在価値はあったわけです。そして終身雇用と年功序列制度のもと、そのビジネス経験が長く、知識とノウハウを身につけた人が偉くなり管理職に出世し、高い給料も支給されていたのです。クラウド時代の今、自社の中を探さなくても、先輩や上司に教えてもらわなくても、必要な知識はネット上ですぐに手に入ります。クラウドを活用して、自宅でもカフェでも、いつもと違う場所で仕事をするノマドワーク。こんな将来の仕事環境を先取りするノマドワークは、コンサルタントや個人事業主、その他フリーランスとして働いている人が多く活用しています。しかし今後は、ネット環境に慣れた若い部下と上司がコミュニケーションを取りながらノマドワークをする、全ての企業とは言えませんが、企業の働き方の「デフォルト」になるのは、そう遠くないことでしょう。

 

 

 

*当ブログは、

「変わる働き方とマネジメント - クラウドとグローバル化が40代を襲う」

(野水 克也著 マイナビニュース)を参考にさせてもらいました。