非言語領域への配慮

「あんなに怒らなくてもいいのにね!」。私の会社、ナレッジ21は金沢新神田の某ビルの3階を借り、事務所として使用しています。ビルのオーナーは1階と2階を自分の経営している電気・通信工事業で使用し、ビルの正面左側には工事用に資材倉庫を持っています。先日のこと、私の会社に来社されたお客様がビル正面左側が空いていたため、この場所に車を駐車し、3階の私の会社に入ろうとしました、そのときです。ものすごい剣幕でビルのオーナーから電話がかかってきました。「こんな所に留めて、何やってんだ・・・」。慌てて車の移動のため1階に降りていった社員は、電話以上に怒鳴られ叱られ、怖かったそうです。あとで、オーナーの奥様に謝りに行きましたが、そのとき奥様の言った言葉が「あんなに怒らなくてもいいのにね!」でした。普段は穏やかなオーナー、それが何故、突然の怒り? そして、奥様の言葉の意味は? 『ビジネスは非言語で動く』(博報堂ブランドデザイン 山形健著)から引用、参考にして人が言葉(言語)として発した裏に隠れている、言葉には表されていない非言語領域の感情、感覚を考えてみたいと思います。


 ハーバード・ビジネススクールのジェラルド・ザルトマン教授の「95対5の法則」というのがあります。意識できる思考は5%にすぎず、背景では95%を占める無意識の思考プロセスが働いている、というものです。日常の例では、自転車の乗り方を言葉で人に教えるのは、案外、難しい。人間はなにげなくやっていることを、驚くほど認識していないからです。自転車の乗り方にしろ、考えることにしろ、私たちの活動には無意識に行っているものが多いということです。この無意識で行っている活動を著者は「非言語的領域」と言っています。


 私たち人間の意識は、5%の言語領域と95%の非言語領域の総和です。圧倒的に多いのは95%の非言語的領域なのです。日常、私たちは、95%の非言語的領域の感情や感覚をもとに感じたことを、論理的に考えて理由をつけて言葉として発しています。特に現代は、人間の行動に何かと理由を付け、理由を大切にする時代でもあります。脳科学でも、「人間は後付けで行動に理由づけする」と言われています。この本の著者はまとめの中で書いています。「その結果、非言語領域への配慮がおろそかになっているのではないか。もっと相手の非言語領域に目を向ける必要があるのではないか」と。


 「これ残業でやっておいてくれ」「何でですか?」。相手の非言語領域に目を向けると、残業でやらなければならない理由を訊いているようで、実際はそうではないのですね。本音は残業したくないんです。冒頭のビルオーナーの怒りや奥様の言葉。非言語領域の感情、感覚を考えてみると、日頃、言葉にしていない裏に隠れている非言語領域の意識「言いたくないけど、日頃から、もっと注意して駐車して欲しい」だったのです。日常の生活やビジネスで、もっともっと相手の非言語領域に目を向ける必要があるのではないか、痛感した出来事でした。