伝説の格段のサービスとは?

ある日、ひとりの男が4本のタイヤを携えて、ノードストロームの店にやって来ました。そして定員に、「このタイヤを返品したい。代金を返してほしい」と言いました。

「かしこまりました。現金でお返しいたしましょうか?それとも、クレジットにしましょうか?」そう店員が問いかけると、男は「現金で欲しい」と答え、店員が用意した現金を受け取って帰って行きました。しかし、ノードストロームはファッションの専門店です。当然のことながら、開業以来タイヤを扱ったことは一度もありません。にもかかわらず、男を接客した店員は、タイヤのカタログでそのタイヤの値段を調べて、その分を返金したのです。

ノードストロームでは、顧客からの返品はすべて無条件で受け入れる方針。その店員もそれを貫き、「どのお店で買われたかも訊かない。お客様の言ったことをそのまま受け止めた」と言っていたそうです。


 今回も『ビジネス寓話50選』(博報堂ブランドデザイン)に載っているエピソードを取り上げています。このエピソードに出てくるノードストロームとは、アメリカで有数のデパートチェーンです。シリコンバレーの某企業とビジネスをしていた50代の頃、打合せのためサンフランスに何度か訪れていますが、サンフランシスコの中心地、ユニオンスクエアの前にもこのノードストロームがあったことを思い出します。当時の私は、ノードストロームは、顧客サービスへの徹底したこだわりを持ったデパートとは全然知りませんでした。今、このエピソードを読むにつけ、顧客サービスに対する「伝説」的なエピソードとは、このようなことなんだと、あらためて実感しています。


 ノードストロームの従業員ハンドブックには、「私たちの一番の目標は、お客様に格段のサービスを提供することです。理想はあなた個人としても、社員としても高く持ってください。・・・」と書かれているようです。そして従業員の規則には、「どのような場面でも、判断力を有効に利用してください。それ以外に規則はありません。・・・」。利益を上げることを第1義にはせず、経済合理性を超えた信念や理想を大事にするノードストローム。他社で買われた商品の返品になんでも応じることの経済合理性に反した対応は、経営を危うくするリスクは非常に大きい。しかし経営破綻したという話は聞きません。社員にとって最も働きがいのある会社であり、顧客からも支持されている会社だからでしょうね。

 

 法政大学の坂本光司教授が書いたベストセラー本『日本でいちばん切にしたい会社』。この中で著者は「経営の目的は業績ではなく、幸福の実現にある。リストラをしたり、社員を幸せにできない会社は顧客からも支持されない」と言っています。アメリカも日本も、従業員が幸せを感じ、働く意欲の高い会社は顧客からの支持も大きい。今日本は、長いデフレから脱却しようとしています。一部の大企業では賃金のベースアップも決まりました。株価は上昇を続けています。これらの要因により、消費も上向きに転じているようです。しかし消費が伸びなくなったとき、ノードストロームの「格段のサービス」と「従業員の高い理想を持った強い働く意欲」の両輪は、顧客から継続的に支持される大きな武器となるでしょう。二つとも中小企業には、格段に難しく、中小企業だからこそ必要な武器なのですが・・・。