40代~50代は自己変革の転機

40代~50代の社員、給与を下げます。こんなアナウンスをしたのは日本の大企業NTTグループです。高齢化社会に向かう日本、年金の支給が65歳に繰り下げられ、希望者全員の65歳までの雇用を企業に義務付ける「改正高年齢雇用安定法」が来年から施行されます。この雇用安定法施行への企業の対応策として、60歳以降65歳までの雇用のための原資を40代~50代の現役社員の賃金上昇、又は減少で捻出するというものです。しかし、65歳まで雇用してもらえるからといって、安定した企業で、慣れた仕事を継続して定年を迎えることは、定年後の人生にとって、良いことだろうか。Kさんの生き方を紹介しながら、考えてみたいと思います。


 弊社では年3回、石川県から委託をうけ、「離職者IT訓練」を行っています。失業者向けに、ITスキルを身につけてもらうための訓練です。応募者が多いため、事前に応募者の面接を行います。訓練コースの定員を超えて受講者が応募しているため、定員に絞り込むための面接です。応募者の中にまだ働き盛りの中高年の男性(50代~60代)が、必ず数名、います。最近は以前より多くなっているような気がします。「パソコが出来ないので、どこも面接ではねられます。3か月の訓練でITスキルを身につけ、どこでもいいから再就職したい」と再就職の厳しい現実を切実に語ります。しかし、パソコンが出来ないから就職できない、それだけではないような気がします。特に中堅・大企業でそこそこの役職についていて、長年同じ会社に勤めていた方には、喋り方や態度に問題があるのです。


 応募してきた一人にKさんという方がいました。56歳でこれまで30数年間働いていた会社を辞め、IT訓練を受けようとしています。石川県内でも中堅の企業で取締役として働いていました。喋り方や態度は非常に好感を持てる方です。10名の若い受講者(定員)と一緒に訓練を受けてもらうことにしました。今は、3ヶ月の訓練を終了し、就職活動をしています。先日、彼が会社を訪れ、就活の状況や就活の考え方を話して帰りました。「会社を辞めてみて、元の会社の部下や同僚との絆がこれほど薄かったとは思わなかった」と。しかし今はITスキルの他に英語も勉強しているとか。「56歳の自分でも必要としているならば、自分の考え方に合った会社ならば、中小零細企業でもかまわない。じっくり焦らず就活したい」。これまでの経験と新たな身につけたITスキル、そしてこれから備わる英語力。これらを軸にして就活をしているKさん。少なからず、心に焦りがあるでしょう。しかし、若い受講生と少しも偉ぶらずバカ話もし、3ヶ月間の訓練を終えた彼ならば、必ず再就職できると信じています。


 会社の看板が外れ、役職で自己紹介できなくなる定年後。再就職は言うに及ばず、地域の集まりや、趣味の習い事で会う人との交流ができず、引きこもりになってしまう人が多いようです。引きこもりになる一つの原因として、地域や趣味の習いごと等で出会う人と無駄話ができないことがあるようです。しかし遠因は、組織の論理で従順さを装って従ってくれた人、その人たちだけとの交流の場であった長い企業内人生にあると言えます。NTTグループが打ち出した40代~50代社員の給与削減。これは前向きに考えれば、この世代に入ったら、第2の人生を考えるキッカケを与えてくれているんだと。一時、40歳定年説が叫ばれたことがあります。今後の労働環境や、定年後の生き方を考えると、仕事人生は40代~50代が大きな転機になって行くような気がします。ひとつの組織で通用した自分から、社会に通用する自分への変革。これからは、自分変革の時代です。