企業の人材育成はITで可能だろうか?

昨日と今日、IT経営情報学会の秋季大会が金沢市の星稜大学で開催されました。今日の午前中、9:00~12:00まで3時間はIT経営情報学会のIT経営研究分科会です。そこでは、IT経営に関する研究発表や2社からの事例発表、パネルディスカッションがありました。私は、パネルディスカッションのパネラーの一人として登壇し、北陸で活動するITコーディネーターとして、北陸のIT経営の実態と企業経営者が認識しているIT経営について、いくつかコメントをしました。

 誰が、いつ、何をしたか。これらのことは、情報システム(IT)でデータ・情報として収集可能です。そして分析し、効果的なアクションに繋げていくことが出来ます。しかし、どのようにしたか、という情報・データは、ITでは補足できません。ところが、ITと監視カメラを連携することによって可能になるのです。IT経営研究分科会で事例発表をした、2012年度経済産業省中小企業IT経営力大賞を受賞した小林製作所さん。工場内に多くの監視カメラを設置し、工場の作業員が行う作業を詳細にカメラに収め、画像をデータ化し作業の改善、工程の進捗管理に役立てています。作業員にとっては、監視カメラによって自分の振舞いが監視されているわけですので、これによって作業員のモチベーションが下がるのではないか。当然、危惧されます。しかし監視カメラは決して作業員を追いかけません。各作業工程のみカメラに収める(ある一定に範囲のみ)ようにルール化しているため、カメラの視界を外れたところで、休憩したり、作業をサボったりできるのです。そのため逆にモチベーションは下がるどころか、自分の仕事ぶりを正確に会社に伝わることに対する安心感、作業効率や仕事の正確性が公平に評価されることによる仕事に対するやる気の向上につながっているようです。


 もう一社の事例報告は会宝産業さん。海外69カ国に中古自動車部品を海外輸出している会社です。この会社のIT化には、私はアドバイザーとして関わってきました。そして今も続いています。この会社の情報システムは、KRAシステムと呼ばれています。このKRAシステムは、廃車となった中古自動の入庫から部品の製造(解体による部品取出し)、部品の品質保証、部品の在庫管理、部品の出荷等を含む中古自動車部品の製造・販売(国内・海外)業の基幹業務システムです。近藤社長が語る中古自動車の国際リサイクルに対する熱い想い、社員に与えつづける夢、一方では5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)の徹底による社員教育。これらのアナログ的な仕組みによる人材育成に加え、KRAシステムには人材育成の仕組みが内包されています。それは、原価管理と予実管理(予算と実績の差異分析管理)、そして結果に対する公平な社員の評価システムです。このアナログ的な仕組みとITとによって、社員のモチベーションを向上させ、生活環境の悪いアフリカなどの新興国(海外)でも仕事をしたい、という社員が多く出てきているのです。


 2011年9月より約1年間、私も参画した福井県立大学の南保研究室とNPO法人福井県情報化支援協会が進めてきたIT 経営の実態と普及に向けての課題に関する共同研究。成果として次のようなことが明確になりました。(1)IT 経営によって成果を上げるためには、経営陣のリーダーシップが不可欠である。(2)IT 経営は単なるIT の利活用ではなく、IT を利活用した経営改革活動によって大きな成果を得る。(3)IT 経営の成果は、従来のコスト削減だけでなく、顧客創造や商品開発など事業を革新させるものである。IT は縁の下の力持ちであり、IT 経営を成功させるためには「経営者が信念を持ってIT を利活用しながら経営改革を進める」ことが必要である。IT 経営によって成果を上げるための要因として、もう一つ付け加えるなら、企業の人材育成です。経営者のリーダーシップと経営者の意思を実現する人材の存在。これは非常に大きな要因です。今回の経営情報学会 IT経営研究部会での発表を聞いて、人材育成はITを活用してできることを実感しました。