次世代高度IT人材、キーワードは「イノベーション」

「IT 経営によって成果を上げるためには、経営陣のリーダーシップが不可欠である」2011年9月より約1年間、私も参画した福井県立大学の南保研究室とNPO法人福井県情報化支援協会が進めてきた共同研究(IT 経営の実態と普及に向けての課題に関する研究)から得られた一つの結論です。研究内容は、福井県内企業約1200社に対しIT経営に関するアンケート調査を行ない、その結果を共分散構造分析によって分析することで、IT経営による成功のためのキーファクタを見つけ出すものです。ちなみに、IT 経営とは「経営環境の変化に合わせた経営改革とIT サービスの利活用により、企業の健全で持続的な成長を導く経営手法」のことです。

 

 分析の結果、経験則で語られていた以下の成功要因の正当性が実証されました。(1)IT 経営によって成果を上げるためには、経営陣のリーダーシップが不可欠である。(2)IT 経営は単なるIT の利活用ではなく、IT を利活用した経営改革活動によって大きな成果を得る。(3)IT 経営の成果は、従来のコスト削減だけでなく、顧客創造や商品開発など事業を革新させるものである。IT は縁の下の力持ちであり、IT 経営を成功させるためには「経営者が信念を持ってIT を利活用しながら経営改革を進める」ことが必要であることが明確になりました。
 報告書では、IT 経営の普及に向けて(1)経営者の意識改革、(2)顧客提供価値の認識、(3)IT 戦略策定の重要性について報告しています。その中で特に重要視している経営者の意識改革については、次のような知見が得られました。IT に対する経営者の意識は、大きく2つに分かれている。IT に関して消極的な経営者は、「IT は組織を維持するためのコストである」または「IT は業務効率を図るための手段であり、人件費コストをIT コストに転換するだけ」というように、IT はコストであると考えている。一方、IT に関して積極的な経営者は、「IT は売上を増加させるための道具である」または「ITは売上を増加させるために必要な顧客提供価値を強化するための道具である」というように、IT は投資であり投資した分の回収は行えると考えている。こうした経営者の考え方の違いが、IT 経営が成果を生みだすかどうかの大きな分岐点であり、今回の研究結果にも明らかに表われている。様々な雑誌などを見ていると、こうした経営者の意識の違いは中小企業だけでなく大企業にも見られるようであるが、今回の研究結果で明らかなように企業規模の小さな企業ほど経営者の意識が重要である。経営者のIT に対する意識を変えることが、IT 経営を普及していくためには大きな課題である。


 今年9月14日、経済産業省から、産業構造審議会情報経済分科会人材育成WGの報告書(次世代高度IT人材像、情報セキュリティ人材、今後の階層別の人材育成)が出されました。次のように書かれています。従来のITが既存の産業のビジネスの効率化を主に追求してきたのに対し、最近では、電力とITの融合によるスマートグリットなどに見られるように、ITはIT関連産業の枠を超え、他産業・分野との融合によってイノベーションを起こし、新たなサービスを創造する役割を担いつつある。このような異分野とITの融合領域においてイノベーションを創出し、新たな製品やサービスを自ら生み出すことができる人材=「次世代高度IT人材」を育成することが喫緊の課題となっている。① 次世代高度IT人材へまず、中高年技術者が自ら次世代高度IT人材=新たな事業・価値(サービス)を創造できる人材になることである。高度IT技術者としてのスキル、経験を元に次世代高度IT技術者の人材像をよく理解し、自らがその人材に近づくために新たな知識・技能を身につけるよう自己研磨し、新たな峰を追求することである。② 次世代高度IT人材の育成者へまた、自らの高度IT技術及び経験を若手技術者に伝えるとともに若手技術者を次世代高度IT人材に育成する役割を担うことも一つの方向である。リーダー、又はマネージャとしての資質を身につけ、若手技術者が持つ柔軟な豊かな発想を活かし、新ビジネスの創出やイノベーションの創出を導く人材としての役割を担うことは重要である。そして、イノベーションを創出する次世代行動IT人材として、ITコーディネータ(ITC)が位置づけされています。


 変化がますます激しくなると予想される、これからの時代。キーワードは「イノベーション(変革)」です。10年後に生き延びている企業はどれだけいるのだろうか。10年企業生存率は6.3%程度と言われています。果たして、その数字どうりになっているだろうか。「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」。進化論のダーウィンの言葉です。人が意識を変えることは難しい。行動を変えるのは、さらに難しい。リスクをとって事業を変革するには、勇気が必要。イノベーションなくして企業は生き残れない。リーダーシップを発揮して事業を変革できた者のみ、生き残っていける。ITCとして、こんなことを経営者に話したりしている私。なんとか10年生き延びてきたナレッジ21。これからの10年を乗り切るビジネスモデルを確立できていません。「紺屋の白袴」にならないよう、日々、考え行動していきたいと思っているところです。